バスジャック

『となり町戦争』の三崎亜記の短編集です。
『となり町戦争』については↓に書いています。
http://d.hatena.ne.jp/tsuki-to/20050720/1129643298


短編集ということで、それぞれについて。

  • 「二階扉をつけてください」

個人的には一番好きかも。
発想も展開も、なかなか面白いです。
斬新な切り口から読み解くとしたら、ナショナリズム批判。
詳述は避けますが、こう読むとなかなか興味深いですよ。

  • 「しあわせな光」

ハートウォーミングなお話。
ロマンチックですこと。
こういう救いのあるお話は、なかなか好きです。

  • 「二人の記憶」

これもなかなかに面白いです。
すれ違うように思える二人。
それでもつながっている二人。
恋人たちは、こんなにも強い。

  • 「バスジャック」

表題作です。
長さも適当、内容も順当。
面白いのですけど、それほど強い印象を与えるものではないですね。
読書会のテーマとなって深く語る機会があったのですが、その議論でけっこう深まりました。
個人的にはイスラム原理主義に対する眼差しを読み取りました。
もちろん強引ではありますが、こういう読み方も面白いです。
まあ、普通に読むならば、主観の危うさに対する警鐘といったところでしょうか。

  • 「雨降る夜に」

わずか5ページの短編。
まだあまりゆっくりと深められていないのですが、何か深い仕掛けがありそうです。
立場を変えてみたり擬人化を疑ってみたりすると何か出てくるかも。

  • 「動物園」

そこそこ長い作品です。
文化受容、あるいは人類学者のフィールドへの受容みたいにとらえてみると、個人的には面白くなります。
安易なのはいけません。
フィールドに入ったら、ギアツの言う「厚い記述」を心がけねば。

  • 「送りの夏」

ここまでくると、中編ですね。
長さがある分、話もしっかりしています。
面白いです。
青春小説としての性格も帯びています。
少女の経験するひと夏の通過儀礼
女の子はこうして綺麗になっていくのかなあ。


総評として、なかなかよくできている短編集だと思います。
感動的、というほどではないですが、買って損はないのではないでしょうか。
隠された意図を探り取る余地はたくさんありますし、読めば読むほど深められると思いますよ。


バスジャック

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